この記事を読めば分かること
~仕事やプライベートで使える交渉術~
- ドア・イン・ザ・フェイス技法
- フット・イン・ザ・ドア技法
- 選択肢を絞る
みなさんは「交渉」をした経験がありますか?交渉と聞くと、外交交渉、労使交渉など、難しいことのようなイメージがあります。
しかし、交渉はふだん、あなたの日常のなかでも使われているのです。
- 奥さんに「今日の晩御飯はカレーがいい」とお願いするとき
- ディズニーランドへ行きたい」という娘に、「近くの公園でガマンして」と説得するとき
- 会社で後輩に難しい仕事をやってもらいたいとき
人が人へ、お願いごとや説得をするときには、必ず「交渉」というプロセスを踏むのです。
このプロセスはとても大事で、単にやってほしいことを口にするだけでは、相手に「YES」と言ってもらえません。それは、お願いごとされた相手は、多かれ少なかれ心理的な負荷がかかるからです。
その心理的な負荷を減らす、または心理的な負荷を利用して、相手に「YES」と言ってもらいやすくする方法、「交渉術」があります。
今回は、今日からでも実践できる便利な「交渉術」について3つご紹介します。
目次
相手に「YES」と言わせる交渉術
ドア・イン・ザ・フェイス技法
「カレーを作って」をどうやって奥さんにお願い(交渉)する?
最初にご紹介するのは、「ドア・イン・ザ・フェイス技法」とよばれる呼ばれる交渉術です。
ドア・イン・ザ・フェイス技法とは、相手の心理的負荷を「わざと」高くして、交渉を有利に進めるための交渉術です。
たとえばあなたが奥さんに「カレー」を作ってもらいたいときです。いきなり、

とお願いしてしまうと
と言われ、却下されてしまうでしょう。
しかし、「ドア・イン・ザ・フェイス技法」を活用すると、こんなやり取りが考えられます。





と、このように無事、夕飯をカレーにすることができました。
ここで重要なことは、最初に「ビーフストロガノフ」というハードルが高い要求をしたことです。
「ビーフストロガノフ」を作ることは、奥さんにとって心理的負荷がかなり高いことです。
当然、奥さんは「YES」とは言いません。
しかし、最初に、より心理的負荷が高い選択肢をしめしたことで、
そのあとに続く「カレー」という選択肢の心理的負荷が低く感じられたのです。
スーパーの試食コーナーでも使われる「心理的負債感」
さらにこのやり取りでは、もう1つ重要な要素があります。
それは、奥さんが「ビーフストロガノフ」という選択肢を却下したことで、少なからず「申し訳ない」という気持ちを覚えていることです。
これは心理学では「心理的負債感」と呼びます。
人は、心理的負債感を感じると、「違う形で返してあげなきゃ」という気持ちがわきます。
先ほどの例では、心理的負荷が低い「カレーを作る」ことで、心理的負債感を解消することができるのです。
この「心理的負債感」は、スーパーやデパートの試食コーナーでよく利用されています。
スーパーやデパートで試食をもらうと、買う気があったわけではないのに、買ってしまうことがあります。
これは、「せっかく試食をもらったのだから、買ってあげないと申し訳ない」という気持ちが働くからです。
このように、心理的負債感をうまく利用することで、交渉を進めるのが「ドア・イン・ザ・フェイス技法」です。
仕事での活用方法
これは、仕事においても役に立ちます。たとえば、あなたが営業マンで、とある商品を1,000円で売りたいと考えます。
ここで、買い手に対していきなり

とするのではなく、

と提示するのです。
買い手は

と言うことでしょう。
(もし、1,200円で買ってくれるなら、儲けものです。)
そして、その後、あなたが

と、もともと売りたかった価格で販売するのです。
このやり取りを経ることで、買い手としては、
「200円得をした」
というお得感と
「会社へ掛け合ってくれたのだから、自分も応えてあげなきゃ」
という心理的負債感の両方がはたらき、スムーズに交渉を進めることができるのです。
フット・イン・ザ・ドア技法
仕事での活用方法
次のご紹介するのは、「フット・イン・ザ・ドア技法」と呼ばれる手法です。
先に紹介した「ドア・イン・ザ・フェイス技法」と似たような名前ですが、まったく逆の手法です。
たとえば、営業マンが自社の新サービスをとある会社に、飛び込みで営業をかけたいと考えたとします。
会社の受付で、担当部署を探してコールし、次のように話をしたとします。

みなさんならどうでしょう?
話を聞くでしょうか?
私なら、丁重にお断りするかと思います。
いきなり訪ねてきて、
「30分時間くれ」
は、ちょっとハードルが高いお願いだと感じます。
では、次のように言うのはいかがでしょう。

これならどうでしょう。
「パンフレット渡されるだけなら、時間かからないしいいか・・・」
と思う方が多いのではないでしょうか。
パンフレットを受け取りに会うことができれば、あとはこっちのものです。
- 「こちらパンフレットと名刺になります。もしよろしければお名刺頂戴できると・・・」
- 「サービスの概要は~~でして」
- 「もしご興味あれば、詳細をご説明させていただいてもよろしいですか?」
と、要求のレベルを少しずつ上げていって、最終的にはもともとの要求であった、「新サービスを30分間説明する」という、当初の目的を達成する可能性がぐっと上がるのです。
これは、心理学における「認知的不協和」が影響しています。認知的不協和とは、ある事柄にたいして、心の中で一貫性を持たせたいと感じる人間の心理状態をいいます。
上の例では、最初の「パンフレットを受け取ってもらいたい」という要求に対して、受け手は「いいですよ」と答えています。
一度、相手に対して「いいですよ」と答えてしまうと、「自分はこの人の要求に対してOKを出す」という一貫性を認知してしまいます。
すると、次の要求のハードルが高いものだと感じたとしても、認知的不協和が働いてしまい、「それは無理です」と答えることが難しくなってしまうのです。
これが、「フット・イン・ザ・ドア技法」です。
日常生活での活用方法
これは、日常生活では、異性をデートに誘うときにも使えます。
いきなり相手に「今週末、一緒にデートしませんか?」と言うのは、誘うほうも誘われる方も、心理的な負荷が高いかと思います。
しかし、たとえば「パスタとか好きですか?」や「今週末って予定空いてますか?」など、相手が「はい」と答えやすそうな質問を投げかけた後に「じゃあ、今週末、一緒に行きませんか?」と誘うほうが、相手は「NO」とは言いづらい、というわけです。
③選択肢を絞る
選択肢が多いと、人は何も決められなくなる
最後に紹介するのは、「選択肢を絞る」です。
たとえば、みなさんこんな経験はないですか?新しい洋服がほしくて、洋服屋さんに入りました。
お店を見て回ると、セーター、シャツ、パーカー、ジャケット・・・さまざまな種類が取り揃えてあります。
「あのセーターは色が素敵・・・でもあっちのシャツは金額が安い・・・あ、このジャケットも着やすそう・・」
など色々考えているうちに、最終的には
「ちょっと決めきれなかったら、また今度にしよう」
となってしまい、結局は何も買わずに帰ってしまいました。これは、なぜ起こってしまうのでしょう。
それは、脳への負荷が判断能力を奪ってしまうからです。
さまざまな要素を検討しているとき、脳には大きな負荷がかかっています。最終的には、「検討したなかでどれがベストか」ということを判断しないといけないのですが、事前の検討に脳のちからを使いすぎると、判断する力が残っていないのです。
「おすすめ」を提案する
そこで活用したいのが、「選択肢を絞る」です。
洋服屋の例でいけば、商品をいろいろ見ているお客さんに対して店員が「おススメ」を提示してあげると効果的です。「これからの季節、こちらの3つがおススメです」などと、選択肢を絞って提示します。
すると、買い手は「3つの選択肢のなかで、どれがベストか」というシンプルな検討をすればよくなり、「買う」という判断に力を割きやすくなるのです。
ただし、選択肢を「1つ」にしてはいけない
ここで注意が必要なのは、選択肢は1つに絞ってはいけない、ということです。
買い手が迷っているときに、「こちらの商品が一番おススメです」と選択肢を一つに絞ってしまうことはありがちだと思います。
しかし、基本的に人は、選択肢が1つしかない状態に強いストレスを感じます。
- 本当にその選択が正しいのか」
- 「他にもっといい選択肢があるのではないか」
そんな疑念が生まれ、その選択肢を受け入れることが難しくなるのです。
ですから、選択肢は2~3に絞って提案すると、買い手としてはスムーズにその選択肢から選ぶことができるようになります。
仕事における活用方法
これは、仕事においても応用できます。
たとえば、あるサービスをお客さんに提案するとき、あえて「ダミーの提案」を混ぜておくのです。
- Aプラン:ハイスペックだが非常に高価
- Bプラン:スペックもそこそこで値段もリーズナブル。コストパフォーマンスが最も高い ←本命
- Cプラン:安価だが、旧式モデルで低スペック
このように3つのプランで提案されると、自然とBプランが一番良い選択肢に見えるため、採用される可能性が高まります。
このとき、単純にBプランだけ提案されると、「そもそも導入するかどうか」の方に意識がいってしまい、導入されない可能性が高くなってしまいます。
何かを提案する際は、適切な数の選択肢を準備したうえで、挑むと効果的でしょう。
交渉術に関する本(参考書籍)
仕事で使える心理学 (日経文庫) 榎本 博明 著
まとめ
「交渉って難しい」「自分は交渉とは縁がない」そんな風に感じている方も多くいるかと思います。
しかし、あなたが思っているよりも、交渉は身近で、また手法を身につければ誰でも行うことができます。きちんと交渉を身につけることができれば、今まで「NO」としか言われなかったことが「YES」に変わるかもしれません。
また、人間関係が良好になるきっかけにもなるかもしれません。これを機会に、ぜひ交渉術について考えてみるのはいかがでしょうか。