ビジネス心理学

「アンガーマネジメント入門」(安藤 俊介 著)の感想

アンガーマネジメントという言葉を聞いたことがあるでしょうか。

近年、企業において上司によるパワハラが問題視されるなか、「怒り」の感情をどのようにコントロールするかが課題となっています。

そんななか、「アンガーマネジメント」という手法が注目されています。これは、1970年代にアメリカで生まれた手法で、怒りをどのようにコントロールするかということに注目したメソッドです。日本でも、少しずつこのメソッドを研修などに取り入れようとする企業が増えてきています。

しかし、怒りの感情は、何もビジネスの世界でだけ起こることではありません。学校生活や家庭、外出先など日常生活のいたるところで怒りの感情は生まれます。「短気は損気」と言いますが、何ごとも怒らないに越したことはありません。

つまり、アンガーマネジメントの考え方は誰もが知っておくべき、人ととしての基本的な能力だといえます。

今回の記事は、そんなアンガーマネジメントの入門書と呼べる、「アンガーマネジメント入門」(安藤俊介著)を読んだ感想についてご紹介します。

怒らない人になるために!アンガーマネジメントの基本とは

筆者 安藤俊介氏のプロフィール

安藤俊介氏は、日本アンガーマネジメント協会の代表理事を務めている方です。

日本アンガーマネジメント協会は、アメリカに本部をおく「ナショナルアンガーマネジメント協会」の日本支部です。日本アンガーマネジメント協会では、企業向けにアンガーマネジメントの研修をしているほか、個人向けの研修なども開催しているようです。安藤俊介氏は、そんなアンガーマネジメント協会の代表です。

アメリカに本部をおく「ナショナルアンガーマネジメント協会」では、15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている安藤俊介氏。日本におけるアンガーマネジメントのトップとも言える方なのです。

アンガーマネジメント入門を読んで良かった点

「怒り」がなぜ起こるのか、という根本への理解が深まる

アンガーマネジメントでは、怒りとはその人が抱える価値観と出来事とのギャップにより生じる、ということが本書に書かれていました。これはとてもよく納得できる部分でした。

同じ出来事が起きても人によって怒るか怒らないかという反応は違います。「人によって反応はさまざまなんて当たり前」と思うかもしれませんが、「なぜ反応はさまざまか」と聞かれると、なかなか明確に答えられません。

普段自分が抱えている価値観。つまり、物事に対して「こうあるべきだ」ということと、現実に起こった出来事とのギャップにより、人は怒りを感じるというのです。

この価値観のことを、アンガーマネジメントでは「コアビリーフ」と呼びます。怒りをコントロールするには、まずこのコアビリーフをきちんと認識する必要があるのです。

たしかに、日常生活を振り返ってみると、自分が怒るときにはさまざまなコアビリーフが働いています。

  • 子供が言うことを聞かずに怒ってしまう ←「子供は親の言うことを聞くべき」という価値観
  • コンビニの店員の態度が不愛想だとイライラする ←「お客さまは神様だ」という価値観
  • いつもの電車が遅延するとイライラする ←「電車は時刻通りに動くもの」という価値観

ある出来事に対して怒りを感じるときは、その前段階でコアビリーフというフィルターを通しているのです。それも無意識のうちに。ですから、まずはそのコアビリーフを認識すること。そしてそのコアビリーフが本当に自分にとって必要なものか再確認することが大事。

怒りに対する基本的な理解が、本書を通じて得ることができました。

アンガーマネジメントの基本的な体系が理解できる

怒りに対する理解を深めたうえで、それではどのように怒りを管理していくことができるのか。

本書では、アンガーマネジメントの取り組み事項の大枠として、「行動の修正」と「認識の修正」の2つを進めていく必要があると論じています。

行動の修正とは、いわば対処療法のようなものです。怒りを感じる出来事に遭遇したときにどのように怒りを抑えるか。病気で言えば、薬を飲んで症状を抑えること。これが行動の修正です。

一方で、認識の修正とは、怒りを感じる根本的な部分を治していくことです。怒りとは、コアビリーフと出来事とのギャップにより生じると書きましたが、そのコアビリーフをどのように修正していくか、ということに論点になります。病気の治療でいえば、運動や食事などで体質改善をしていくイメージでしょうか。

これら「行動の修正」と「認識の修正」の両方において、取り組むべきことが記載されています。アンガーマネジメントの全体感について触れたうえで、具体的な取り組みに入っていくので、とても分かりやすく内容を理解することができました。

"事例"が豊富

アンガーマネジメントの本ということだけあって、実際に怒りに関する実際の事例が多数紹介されています。

  • 電機メーカーに勤務するAさんが業界団体で体験した怒り
  • ダイエットを始めたという女性が同僚と話をしたときに感じた怒り
  • 車で営業周りをしていた男性が割り込みをする車に感じた怒り

これらの怒りのエピソードが、アンガーマネジメントの基本的なことと絡めて紹介されています。実際の事例と絡めながら話が進んでいくため、理解が深まりやすかったです。

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アンガーマネジメント入門を読んで疑問に思った点

怒りを抑えるテクニックを実施することの難しさ

本書では、怒りの行動を修正するテクニックとして、さまざまなテクニックが挙げられています。本書であげられていたテクニックは、下記の5つでした。

  • ストップシンキング
  • ディレイテクニック
  • コーピングマントラ
  • グラウンディング
  • タイムアウト

これらのテクニックを駆使して、怒りの衝動を抑えることができる、としています。しかし、果たしてそんなにうまくいくでしょうか。

そもそも怒りを感じる場面では、冷静に考えることができないことがほとんどです。(冷静じゃないからこそ、怒りを感じるわけですから。)そんななか、テクニックを駆使して怒りを抑えるということが、あまり現実味を感じませんでした。

一方で、少しでも冷静になれれば、上記に書いたようなさまざまなテクニックを駆使して、怒りを抑えることができます。テクニックが多数紹介されているため、これらのテクニックを知っていれば、いざというときに怒りを発生させる確率が減るでしょう。

怒りの記録「アンガーログ」を取ることの難しさ

本書では、怒りを可視化するために、怒りの記録「アンガーログ」を取ることを推奨しています。

このアンガーログは、怒りを感じるたびに、日時・出来事・思ったこと・感情の強さなどを記録しておくものです。このアンガーログのつけ方について、本書では下記のように推奨しています。

(本書 P123より引用)

アンガーログは怒りを感じたら、そのたびに記録をしてください。

一日に何度も怒りを感じるのであれば、一日に何度も記録をしてください。

記録をつけることで、自分の怒りを形あるものとして認識できるようになります。

これは、なかなかに高いハードルです。

怒りを抱えやすい人の多くは、忙しい日々を送っていると思います。会社で働いているなかで、怒りを感じる瞬間はたくさんあるかと思います。それらの出来事を、怒りを感じるたびに記録しておくということは、容易ではありません。

もちろん、本書でも「全てを記録しておく必要はない」としています。要するに、怒りを感じたときに、「感じた」ということを記録しておけばいいのだと理解しましたが、それでも簡単ではないでしょう。

怒りの記録をきちんととるには、いつでも記録しておく環境を整えておく必要があるでしょう。スマホのメモ帳に記載しておくこともいいでしょうし、下記のようなアプリを活用するのもいいでしょう。

アンガーログ

アンガーログ

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いずれにしても、アンガーマネジメントでは怒りのログ(アンガーログ)をつけることはとても重要です。本書でその重要性や記録のつけ方など基本的なことを理解したうえで、どのように習慣化させていくかを考えることが大事でしょう。

 

総評

アンガーマネジメントは、ストレスが多い現代社会では必須のスキルといえます。

特に、働き盛りの中高年の方は、家庭もあり、部下を持ち、上司もいて、何かとストレスを抱えているのではないでしょうか。

怒りの感情をそのままぶつけてしまうことは、決してメリットにはなりません。人間関係を悪化させる原因にもなり、信用を失うケースもあります。

このアンガーマネジメント入門では、そんな怒りの管理についてとても分かりやすく、またその手法も豊富に紹介されています。

生きていくうえで欠かせない怒りの管理を、これを機会に学んでみてはいかがでしょうか。

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